緒言: 鍼灸施術は衛生管理が行いやすい施術室内のみならず、災害被災地、スポーツ現場など、通常の手指衛生衛生操作が難しい施術室外での施術が求められることもある。そこで、標準的な手指衛生操作と同等の効果が得られかつ施術室外で実行可能な手指衛生操作を明らかにする。
方法: 対象者は鍼灸師5名とした。対象者は、5時間以上の間隔を空けて、1.擦式消毒、2.エタノール含有のウエットティッシュでの清拭、3.エタノール非含有のウエットティッシュでの清拭、4.エタノール含有のウエットティッシュでの清拭と擦式消毒、5.エタノール非含有のウエットティッシュでの清拭と擦式式消毒、6.石鹸を用いた手洗いと擦式消毒の6条件で手指衛生操作を行った。手指衛生操作後、対象者は鍼灸針(直径0.22mm、長さ50mm、ステンレス製)を鍼根から鍼尖まで5回触り、その鍼灸針をSCD寒天培地上に静置した。また、鍼灸針に触れた側の手指も5秒間SCD寒天培地に接触させた。培地は24時間37℃で培養し、鍼灸針に関しては細菌コロニー形成の有無を、手指についてはコロニー形成数を計測した。
結果: 鍼灸針については、条件1、3、4、5、6では5件中1件、条件2では5件中2件で鍼灸針近傍にコロニー形成が認められた。手指に関しては、条件1: 107.7±183.9個、条件2: 166.0±332.0個、条件3: 69.3±83.7個、条件4: 3.3±1.5個、条件5: 15.0±25.1個、条件6: 0.5±0.6個、それぞれコロニーが形成された。
考察: ウエットティッシュでの清拭と擦式消毒を組み合わせた操作は、それぞれ単独で行った時よりも手指は清潔になると考えられる。鍼灸針への細菌の付着は手指の清潔のレベルに関わらず、一定の確率で生じうると考えられる。
結語: ウエットティッシュの清拭と擦式消毒を組み合わせた場合、手指の細菌汚染の程度は低くなり、施術室外での手指衛生操作として流水による手洗いと擦式消毒の代替となる可能性がある。
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恒松美香子、今井基之、今井賢治