目的:肩関節障害に伴う疼痛管理や関節可動域の改善に、鍼灸施術が有効であると考えられている。今回、肩甲下神経を刺激した後に肩関節可動域が改善した例を報告する。
症例:50歳女性。X年2月より左肩関節の運動時痛を感じ始める。4月に整形外科を受診しX線上は問題なく、消炎鎮痛剤を服用した。痛みは6月くらいまでに徐々に増悪し、その後、肩関節の可動域制限も増悪してきた。6月より接骨院で電気治療を受け、10月頃までに疼痛症状は改善してきたが、その後は関節可動域制限が顕著となった。11月に計測した肩関節可動域は、屈曲130°、伸展40°、外転90°、外旋10°、内旋60°であった。本症例に対して、肩甲下神経への低周波鍼通電を行った後、棘上筋、棘下筋、三角筋、僧帽筋下部線維への低周波鍼通電を行った。低周波鍼通電はいずれも2.5Hzで10分間行った。使用した鍼灸針は肩甲下神経の刺激にはステンレス鍼の60㎜・20号鍼を、その他の部位はステンレス鍼の50㎜・20号鍼を使用した。肩甲下神経刺激は烏口突起の内縁に沿って直視で刺入し、通電によって肩関節が内旋することで肩甲下筋が収縮していることを確認し、肩甲下神経への刺激がなされているとみなした。
結果:肩甲下神経への通電を行った後の肩関節可動域は屈曲130°、伸展40°、外転90°、外旋30°、内旋60°となった。さらに、棘上筋、棘下筋、三角筋、僧帽筋下部線維への低周波鍼通電を行った後は屈曲140°、伸展45°、外転95°、外旋30°、内旋60°と変化した。
考察:肩関節の外旋運動の拡大は、肩関節の内旋筋である肩甲下筋の拘縮が改善が関連したと考えられる。また、肩関節周囲筋への低周波鍼通電刺激も肩関節可動域を改善させうることが示唆された。
結語:肩甲下神経への刺激による肩甲下筋刺激は肩関節の外旋可動域を改善させる可能性がある。
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南雲健、恒松美香子