日本国憲法がGHQ(連合国軍総司令部)の影響下に作成されたことは周知の事実である。本稿は、日本国憲法の成立過程を概観した上で、日本国憲法の前文におけるGHQの影響について、語学的観点から考察したものである。
とりわけ、外務省による草案の翻訳にある「…政府ノ行為ニヨリ再ヒ戦争ノ恐威ニ訪レラレサルベク決意シ…」という不自然な日本語と、草案原文の当該箇所を比較検討し、日本政府に対するGHQのあまりに性急な憲法制定要求と、これに応じた日本政府と外務省の拙速な反応に言及した。
こうしたことを起点として、本稿は、日本国憲法におけるいくつかの国語表記の不自然さをも指摘し、国語としての正しい姿を持つ日本国憲法の新たな制定に期待をかけた。リンカーン米国大統領の人口に膾炙した演説の一節を借りて述べるならば、「日本国民の、日本国民による、日本国民のための憲法」の成立が切に望まれるのである。