目的:働く場を移動した経験のある看護職自身の移動に対する認識および自己の看護実践能力が融合されるメカニズム(移動前からもっていた能力の変化や新しく身についた能力などがどのように変化し融合するか)について明らかにする
方法:令和2年1月から令和3年10月に、機縁法により移動経験のある看護職(他施設での就業経験があり既卒採用者で入職した看護師)で採用後2-3年目にある看護師のうち、調査協力依頼に同意の得られた9名に対して、半構造化面接を行った。インタビューを逐語録にした内容をM-GTAの手法を用いて質的に分析した。
結果:対象者は、新しい職場に入って【これまでと異なる環境に直面して戸惑う】。その中で【とりあえず言われたようにする(従う)】、【人間関係の濃淡を作って対応する】、【信頼を得るように努力しつつ自分を少し出して反応を見る】という戦略で、【これまでと新しいやり方をすり合わせ(る)】ていた。また、【今までのスキルがぱっと出て(くる)】きて、出合った状況に擦り合わせて対応していた。さらに、経験のなかったことについては、【新たにできるようにな(る)】ってもいた。これらの能力の融合を促進するものとして、転職に備えて【コツコツ学習を積み重ねる】努力や【モチベーションを保つためのコーピング】といった個人の要因と、【職場の他者の支え】という周囲の要因があった。並行して、【変えた方が良いと思うことのビジョン実現に向けて行動(する)】していた。
考察:対象者はこれまでの職場との違いに直面し戸惑うが、新たに置かれた状況の中で求められるものが何であるかを見極め、これに応じようとしていた。この過程で、新しい職場で求められる能力とこれまで培った能力を照らし合わせ、一方でこれまで培ってきたを知識・技術を活用しつつ、他方で必要な知識・技術を新たに獲得して自らの能力をすり合わせて(融合させて)いた。つまり、移動に伴って生じた求められる能力の違いが、能力を向上させる引き金となっていた。能力の融合は、増加する経験を整理しつつ、能力を質的に変化させて新たな能力として統合することや、対象者自身が意図的に人間関係の濃淡を作り、その関係を活用して必要とされる他者からの支援を得ることで起きていた。