学会発表
中村晃士, 森美加, 大渕敬太, 山寺亘, 中山和彦.
近年就労者が抑うつ状態、適応不全を呈して休職に至るケースが増えているが、その背景には近年の成人期および中年期の特有の同一性危機の問題を抱えている者が少なくない。そこで、精神神経科外来を受診した同一性の危機を背景として、適応不全を起こした症例を呈示し、最近の就労者の同一性の問題について若干の考察を加えた。成人した就労者はその長い就労期間の中でいくつものハードルを乗り越え、就労者としてまたは組織の一員として成長をし、その年代にあった自我同一性を獲得していく。しかし近年の就労者では、「終身雇用制度の崩壊」「第2の人生」といったキーワードが最近浮かび上がって来ているように、単に定年まで仕事を全うすればよいというわけではなくなってきている。こういった社会的背景から現代の就労者はなかなか自我同一性を確立しにくい状況にある。そのためこの症例のように同一性危機に陥り、その結果として適応不全、さらには休職に至るようなケースが増えてきていると思われる。