背景:鍼施術では鍼を清潔に保つことが重要である。そのため、近年では鍼を刺す際に手袋や指掛けを使用することが推奨されている。特に日本では、視覚障害者にとって鍼灸師は重要な職業である。したがって、視力に関係なく鍼を清潔に保つための処置は重要である。しかし、鍼灸領域におけるその有効性に関する報告は少ない。本研究では、医療用手袋と指用ストールを使用することで、鍼灸師の指から鍼に付着する異物を防止できるか否か、走査型電子顕微鏡を用いて評価することを目的とした。
材料と方法:対象は20名の鍼灸師(晴眼者10名が、視覚障碍者10名)とした。鍼灸師は、清潔なシートの炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)に親指と人差し指を入れ、異物の模型とし、指をこすり合わせて余分なNaHCO3を取り除いた。次に、鍼を指で触った。NaHCO3を付着させた後、鍼灸師たちは、素手、タルクパウダー入りラテックス製指用指サック使用、パウダーフリーのニトリル製手袋使用の3つの条件で、ステンレス製の鍼の根元から先端までを5回指でなぞった。また、鍼の表面に付着した異物および鍼自体の表面の元素成分をエネルギー分散型X線分析装置で分析した。
結果 素手で鍼を触ったところ、20本すべての鍼の表面にナトリウム元素を含む異物の付着が確認された。粉末ラテックス製の指ストールを用いて鍼を触ったところ、20本すべての鍼の表面に異物の付着が認められたが、珪素とマグネシウムの元素を含んでいた。パウダーフリーのニトリル手袋を使用して鍼に触れた後では、どの鍼の表面にも異物の付着は観察されなかった。
考察と結論:清潔な手袋と指止めを使用することで、視力に関係なく鍼灸師の指から鍼に異物が付着することを防ぐことができる。
恒松美香子、今井基之、今井賢治