物語論アプローチへの《語り得ないもの》という視点導入の試み
本研究では従来の自己物語研究で看過されていた、人々の語りにおける〈語り得ないもの〉について理論的検討を重ねた。〈語り得ないもの〉を表象する3つの基準-①飼い馴らされずにいる声、②出来事を見通す統一的な視点のないモダニズム的文体、③精神分析で触れられる仮構の物語の介在-を提起した。この基準を用いて性同一性障害の事例を再分析した上で、「自己とは自己物語である」とする主張への警鐘を鳴らした。
心理学評論