我々はこれまでに、組換えビフィズス菌を薬物送達担体として用いた抗腫瘍療法の開発を進めてきた。MRS培地やBSM寒天などビフィズス菌の培地は、肉エキスなどの動物由来成分や酵母抽出物を含んでいる。組換えビフィズス菌を安全にヒト体内に直接投与するためには、動物や他の微生物に由来する成分の混入を可能な限り低減する必要があると考え、培養基剤として合成成分のみからなる輸液・注射剤等を用いたビフィズス菌培養液の作製を試みた。具体的には、ビフィズス菌(B. longum)栄養要求性試験のデータをもとに、微量元素、ビタミン類、アミノ酸、ブドウ糖を含有する高カロリー輸液を基剤として用いた。高カロリー輸液の希釈系列を作成してビフィズス菌に対する至適浸透圧比を決定した後、還元剤としてアスコルビン酸およびシステイン、B.longum の要求性の高いビタミン類、食肉や酵母と比較して不足しているアミノ酸類、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム水溶液を追加して培養液を調製した。 作製した新規組成の培養液における増殖効率は、組換えビフィズス菌を植菌して一晩培養した後、600 nmにおける吸光度を、従来のMRS培地で培養したものと比較して評価した。この培養液を用いて組換えビフィズス菌を培養したところ、MRS培地と比較して1/3程度の増殖効率を得たことから、動物および他の微生物に由来する成分の混入を低減したビフィズス菌培養液を作出できたと判断した。 さらに、追加したアミノ酸類に代えて脱脂大豆の加水分解物を添加することで、MRS培地と同程度の増殖効率を達成した。この組成では、高分子蛋白質を含まない環境下で、従来の培地と同等にビフィズス菌を増殖させることが可能であり、組換えビフィズス菌の分泌蛋白質を解析するツールとして有用と考えている。
発表者
平 郁子、平 裕一郎、斎藤 浩美、磯田 勝広、清水 芳実、石田 功