2021 年 12 月、厚生労働省は新生児聴覚スクリーニング検査を今後すべての新生児に 実施していく方針を発表した。 他方、聴覚障碍児や盲ろう児の障碍発見後の早期支援の体制には、地域差や支援法の 偏りがあることが従来から指摘され、こうした問題の是正は喫緊の課題と考えられてい る(厚生労働省 2015)。 そうしたなかで、今回私たち(言語聴覚士、心理学・教育学の研究者、支援現場の有 識者、医師、視能訓練士らのグループ)は、聴覚障碍児・盲ろう児の早期発達支援プロ グラムを、当事者とその家族の協力を得て、作成する機会(2018 年度厚生労働科研費障 碍者福祉政策事業)を得た。 ここでは、プログラムの作成にあたり私が行ったインタビューの中から、成人盲ろう 者の語るエピソードの一部を紹介し、彼らが抱える「独自の困難性やニーズ」とはどのようなもので、私たち社会の側に求められる配慮は何か、当事者の生きる現実と、彼ら と私たちの「接面」をめぐって考察を行った。
二人の語る日常のエピソードからは、彼らと私たち(健常者)の通じ合いには、言語 的記号やコミュニケーション・モード(音韻や文字、手話、指点字)の共有による「意 味的な通じ合い」以前に、その成立基盤となる「間身体的な響き合い(共通感覚性)」 が極めて重要で、その根深い「ずれ」が、相互の「気持ちの共有」と「わかり合い(接 面を生み出すこと)」を阻む大きい問題として潜在していることが理解された。 そして盲ろう者の QOL の充実にとって最も大切なのは、障碍の軽重や能 力的な問題以上に、「(通じ合える)『仲間がいて、人と繋がり合えること』だ」との当事者の語りに見る通り、彼らと周囲の人々との「接面」、特に感性的なコミュニケーションと「気持 ちの通じ合い」の視点から、視聴覚の補装具の活用を含め、望ましい支援の在り方を吟 味し、考えていくことが、今後ますます重要と考えられた。