山岳氷河の崩壊による雪崩とそれに伴う土石流や洪水の事象は、1万8千人の犠牲者を出した1970年のペルーの大惨事など、多くの人命を奪う災害として古くは18世紀から記録されている。ネパール中部、アンナプルナ山塊の南麓に源流を有するマディ川の左岸支流においても、2003年に氷河崩壊が原因として考えられる洪水が発生した。このマディ川では本流源流においても、頻発する氷河崩壊によって再生氷河であるカプチェ氷河が標高2500 mの谷底に形成されている。この高度はネパール・ヒマラヤの一般的な氷河の分布高度よりも2000 m程度低く、ヒマラヤ全体で見ても特異な存在である。各種の衛星画像や現地調査から、カプチェ氷河では2008年頃以降にその下流側に氷河湖が出現していることや、雪崩による涵養が11月から6月に集中し、それ以外の季節は氷体の顕著な薄化とクレバスの出現がみられることなどが明らかになってきた。本発表ではこれらの詳細について報告する。