心理支援職のキャリア形成は、典型的なモデルが存在しない。臨床心理士及び国家資格化された公認心理師を養成する上で、キャリア構築の道筋を示すキャリア教育は、重要な課題であるが、心理職のキャリアは領域毎、勤務形態毎に個別性が高く、キャリア形成過程は異なることが推測される。多様なキャリア形成過程の分析を蓄積し、その背後にある共通性と個別性を見出すことで、キャリア形成に関する基礎的資料を得ることができるのではないかと考える。発表者はこれまでに「医療領域勤務とアウトリーチのかけもち」、「心理支援の研究職」のキャリア形成過程について当事者の語りから分析し本学会で発表してきた。今回は、医療領域常勤心理職のキャリア形成過程についてライフイベントとの関連から検討した。
その結果、医療領域の組織の中では心理支援職の存在意義を認知してもらうための土壌づくりが重要であることが語られ、常勤職として雇用の安定というメリットを実感する一方、心理支援以外の業務に忙殺されることや産休・育休でブランクが生じることへの焦り等の葛藤が示された。しかし、これらの経験を通じて他職種と連携し調和的なコミュニケーションをとるための柔軟性が培われたこと、自身が親になるという体験を通じて、人間の可能性と限界、「あきらめる」ということに対する省察とクライエント理解が深まり、心理支援職のやりがい、面白さの実感に至ってた。他の領域の心理支援職同様、<迷いながら、走りながらのキャリア構築>は現在も続いており、人生の長期化、特に女性におけるキャリア形成が多様化する中、経験10年目を一区切りとして螺旋状に次のキャリアへの段階を視野に更なるステップアップを試みていることが推察された。