【目的】本研究は、バレエの基本姿勢における体幹筋活動機序の解明を行うことを目的とした。具体的には、①骨盤の角度変化、②股関節の角度変化、および③腹直筋の筋活動量について、三次元動作解析装置と表面筋電計を用いてプロダンサーにおける体幹の安定性や姿勢保持技術について評価・分析した。
【方法】被験者は過去3か月以内に腰部や下肢に整形外科疾患の既往がない30~40代プロダンサー3名とした。反射マーカーはVICONプラグインゲイトモデルに順じ、39か所(頭部・体幹9か所、上肢14か所、下肢16か所)に取り付けた。骨盤と股関節の角度変化量は三次元動作解析装置(VICON社製、 サンプリング周波数100 Hz)と床反力計(KISTLER社製、サンプリング周波数100 Hz)、筋電図の計測は,表面筋電計(DELSYS社製、サンプリング周波数1000 Hz)を用いて被験筋は腹直筋とした。動作の測定は、床反力計上で反射マーカーと筋電図電極を付けた状態で立位とし、両脚を肩幅に広げ解剖学的肢位を5秒間保持している状態の関節角度、筋電図波形を基準値とした。その後、右脚を動作脚としてパッセ、アティチュード、アラベスクの順に各動作を2秒間保持し、3回反復した。解析項目である①骨盤の角度(前後傾、左右傾斜、回旋)、②股関節の角度(屈伸、内外転)については各動作2秒間の最大値から解剖学的肢位(基準値)の差を求めた。③筋電図波形は二乗平均平方根(root mean square, RMS)を算出し、基準値のRMSで除することによって筋活動量を相対表示(%)した。【結果】骨盤の前傾、右回旋、および股関節の伸展角度はアラベスク時に最大値を示し、骨盤の側方傾斜および股関節の外転角度はパッセ時に最大値を示した。さらに、腹直筋の活動量は、動作脚側(右)ではアティチュードおよびアラベスク時に上昇し、支持脚側(左)においてはアラベスク時に上昇する傾向がみられた。【考察】本実験において,下肢の動作時に骨盤の傾斜および回旋を伴うことを確認した。股関節伸展動作に伴う腹直筋の活動量上昇は、遠心性の筋活動であることが示唆された。しかし、今回はプロダンサー3名のみの解析結果であったため、今後被験者を増やしプロダンサー群とアマチュア群で比較検討を行う必要がある。