胸椎後弯が肩挙上障害に与える影響
國分義之(帝京平成大学)
Key words: 胸椎後弯角、肩挙上制限
【背景・目的】
胸椎の後弯角は加齢とともに増加し,肩関節障害への関与が報告されている.しかし,胸腰椎単純レントゲン上での胸椎後弯角と肩挙上制限との関連は不明である.本研究は,静的後弯と動的後弯および肩関節挙上角度の関連を明らかにすることを目的とした.
【対象・方法】
2010年に福島県南会津町・只見町で実施した住民健診で,運動器検診に参加した2505名のうち,754名(男性293名,女性461名,年齢40-89歳)を対象に胸腰椎レントゲン撮影を実施した.胸椎後弯角度は,胸腰椎レントゲン撮影より求めた胸椎後弯角(静的後弯)と後頭壁間距離を用いた胸椎の伸展制限(動的後弯)を計測した.肩挙上制限は,挙上角度150°未満を挙上制限ありとした.
静的後弯と動的後弯と肩挙上障害の関連は,性別・年代別を調整した多変量解析を用いて評価した.いずれも有意水準を5%とした.
【結果】
肩挙上制限の有病割合は754名中61名8.1%であった.年代別では,男女とも年代上昇とともに有意に肩挙上制限の有病割合が増加した.また,静的後弯角の平均値は,33.0±12.1°であった.男女別では男性33.1±11.7°,女性32.9±12.4°と男女間で有意差はなかった.男女と年代に有意な関係は認められなかった.静的後弯角40°以上の静的後弯増強の有病割合は,754名中190名25.2%であり,年代別では,男女と年代に有意な関係は認められなかった.一方動的後弯陽性者は,754名中182名24.1%であった.性別間では有意差は認められなかったが,年代別では,男女とも,年代上昇とともに動的後弯陽性の有病割合が有意に増加した.胸椎後弯と肩挙上制限に及ぼす影響は,静的後弯増強と肩挙上制限には有意差は認められなかったが,動的後弯陽性と肩挙上制限には有意な関連が認められた.
【考察】
本研究の結果から,肩挙上障害には静的後弯ではなく,動的後弯が強く関与する可能性が示唆された.