日本のコーポレートガバナンス改革は、日本版スチュワードシップコードの導入により、機関投資家にスチュワードシップ責任を課し、企業によるガバナンスの実行状況をモニタリングさせる点に特徴がある。コーポレートガバナンスコードは”Comply or Explain”の原則のもと、ガバナンスの実践主体である企業に裁量の余地を残し、コーポレートガバナンス実践に対する自発的運営を求めている。一方、機関投資家、具体的には、顧客資金を運用する運用会社と運用資金の管理を行うアセットオーナーに対して、運用資金のスチュワードとして、委託された運用資金の「中長期的な投資リターンの拡大を図る責任」を課している。その際には、「投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、「当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより」、行う。運用会社がスチュワードシップ責任を果たすには、運用戦略に応じて企業に対するエンゲージメント活動を実施するよう要請されており、エンゲージメント活動実施を通じたスチュワードシップ責任が重要となる。元来、運用会社は、顧客や受益者の資金運用において、受託者として果たすべき受託者責任が課されており、運用を行う際には、これに基づく善管注意義務を果たす必要がある。この点、スチュワードシップコードは、この受託者責任を改めて明文化し、その義務履行に、エンゲージメント活動をはじめとする企業側とのインターラクションを通じた行動とその実行状況の開示を要請している。運用会社と企業とのインターラクションという観点では、株主による行使が予定されている、株主総会での議決権行使、株主総会への出席、株主総会での発言、株主議案、などを、株主に代わって行使する側面と、インベスターリレーションミーティング参加、個別ミーティング、のような運用プロセスの一環の側面の両方が含まれる。本報告では、機関投資家のスチュワードシップ責任を、企業によるガバナンス改革の進捗をモニタリングし、企業とのコミュニケーションを通じた、持続的成長に対する責任分担の仕組みと捉えた上で、エージェンシー理論の枠組みに基づく、運用会社におけるスチュワードシップ活動に対する提言を行う。