2013年以降日本で進められたコーポレートガバナンス改革の意義を、エージェンシー理論に基づいて再構成する。株主が取締役を選任し会社の経営を委託し、その経営をモニタリングする仕組を定めるガバナンスの問題は、両者の関係をエージェンシー関係と捉え、その利害関係を調整するエージェンシー問題に帰結する。コーポレートガバナンスをめぐる諸問題は、最終的にエージェンシー問題を如何に解決するかの問題に他ならない。エージェンシー理論は、株主をプリンシパル、経営者をエージェントと構成し、エージェントの業務遂行がプリンシパルの利害から解離することから生じるエージェンシーコストを如何に最小化するか、を考察するものであり、このコスト最小化の取組みの観点から、今回のコーポレートガバナンス改革を論理構成し、その意義を考察する。
今回の改革は、これまで会社法に採用されてきた、様々なエージェンシーコストを削減する仕組をさらに進めるもので、スチュワードシップ報告書で効果が確認できる段階になった。具体的には、業界知識を持ち専門性の高い機関投資家が企業とのエンゲージメント活動を進めることにより、株主がこれまで積極的に行ってこなかった議決権行使の活発化、取締役会の独立性・多様性の向上による利益相反の減少、機関投資家と経営者の協議による経営改善効果など、結果としてエージェンシーコスト削減につながる取り組みとなる。日本版スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンスコードの導入は、機関投資家に改革のモニタリング責任を課し、両コードを梃子に、企業の中長期成長と収益性向上を目指しているが、両コードをつなぐ役割を果たす、運用会社によるスチュワードシップ活動が効果発揮に重要な要素となる。
本稿では、第一に、日本の歴史的観点、米国との比較の観点を取り入れ、コーポレートガバナンスをめぐる議論を再整理する。次に、コーポレートガバナンス改革の意義を、上記のエージェンシーコスト削減に向けた取組みとして、エージェンシー理論に基づいて再構成し、その効果が期待できることを示す。最後に、改革の結果により、運用会社に起きる今後の動向や変化を予想し、その解決策を提案する。解決策には、機関投資家と企業のスチュワードシップ活動の開示が重要なポイントとなり、海外の事例を踏まえた開示方法を考察する。