在宅医療に関わる薬局薬剤師の役割に関する苦悩とその対処の術に関する質的研究
-長崎市における調査から-
【目的】
薬局薬剤師が在宅医療に関わる上で生じる自らの役割に関する苦悩とその対処の術がどのようなものか、インタビュー調査より明らかにすることを目的とした。
【方法】
2014年9月より2015年7月、長崎薬剤師在宅医療研究会(P-ネット)の会員薬剤師である調査協力者6名にインタビューを行った。インタビューでは、患者・患者家族、他の専門職との関わり方やその中で生じた困難、困難への対処法などについて大まかに質問内容を決めた上で半構造化面接を行った。インタビュー内容は調査協力者の同意を得てICレコーダーに録音しテキスト化した。テキスト化されたインタビューデータを、一人ひとり語りの内容ごとに小見出しをつけて整理し、在宅医療に関わる薬剤師の抱える役割に関する苦悩とその対処について示していると考えられる内容について6名のデータを横断的に見渡し概念を生成した。
【結果】
在宅医療に関わる薬剤師の役割に関する苦悩として、患者・患者家族、医師、他の専門職との間における[医薬品提供者という限定的役割にとどまる]こと、在宅医療には関わっていない薬剤師との間における「薬剤師間にある温度差」という2つの概念が導かれた。また苦悩への対処として、個人として「越境を試みる」こと、P-ネットという薬剤師ネットワークとして「縦横ネットワークの構築」という2つの概念が導かれた。
【考察・結論】
社会学者の松繁卓哉は、多職種連携のインターフェースに着目し、「専門分化」と「連携」が引き起こす労苦を「分断のサファリング(苦悩)」と呼んだ。本研究から導かれた薬剤師の苦悩は「分断のサファリング(苦悩)」という概念でとらえることができると考えられた。そして、その苦悩に対して、個人のみならず、集団として対処していることが示唆された。