【目的】ヒトにとっては顔とは特別な対象であり、社会的にも重要な意味をもつものである。加えてヒトの顔で表現される表情は東洋医学でも重要とされており、特に五情と呼ばれる5つの感情は健康状態へも大きな影響を与えるとされている。本研究では、顔面部への鍼刺激が顔の表情に与える影響を評価、検証し、顔学的観点からのエビデンスを確立するとともに、健康面やQOLにまで言及することを目的としている。【方法】Microsoft Azure Face APIを用いて表情検出を行った。今回対象にした表情は『smile』『anger』『sadness』『surprise』の4表情で、課題提示方法は刺激提示課題を採用した。被験者はランダムに抽出された健康成人8名(m:4, f:4, age:20.6±0.18)を対象に顔面部への鍼刺激を行い、刺激の前後で表情検出量を比較した。鍼はセイリン社製ステンレス鍼(l:15mm, φ:0.10mm)を使用し有資格者が刺鍼を行った。鍼刺激を行う部位は全ての表情筋を網羅出来るよう抽出された全15穴、25カ所とする。【結果】全体の表情率は鍼刺激前、鍼刺激後の比較において有意な差が見られた(P<0.05, Wilcoxon符号付順位和検定)。また『sadness』以外の3つの表情では有意差は見られなかったものの表情検出量が増加する傾向がみられた。効果量判定では、4表情全てにおいて小程度の効果が確認された(d>0.2, Cohen’s d)。【考察】今回得られた結果から、顔面部への鍼刺激により豊かな表情表現が可能になったことが示唆された。また表情フィードバック仮説において、豊かな表情表現は感情へまで良い影響を及ぼす可能性があることから、顔面部への鍼刺激は表情表現へ良い影響を与えるのみに留まらず、QOLの向上へも影響を与える可能性が示唆された。【結語】本研究によって顔面部への鍼刺激がAIによる表情検出量を増加させることが明らかになった。この結果から顔面部への鍼刺激がヒトの表情表現を豊かにする可能性が示唆された。