【目的】黄帝内経霊枢では衛気が睡眠に関連するという記載が多くみられ、特に入眠との関係が深いと記載されている。また衛気は全身を流れる経絡の内、睡眠直前に足陽明胃経を通るとされる。本研究では足陽明胃経への鍼刺激が入眠潜時に与える影響を明らかにし、入眠困難をはじめ多くの睡眠に関連する問題を有する人々へ貢献することを目的としている。
【方法】健康成人210名にJESSおよび、PSQI-Jを用いたスクリーニングを行い(JESSスコアが10≧, かつ PSQI-JにてC4~C7のスコアが1≧でC2のスコアが3の者 )、対象となった15名の内、同意の得られた5名(m:3, f:2, age:21.2±0.48)を対象とした。介入は足陽明胃経が流れる前脛骨筋上で被験者自身が圧痛を感じる点片側3点、両側で6点にセイリン社製の円皮鍼(φ=0.2mm, l=1.5mm)を有資格者指導の下、セルフで貼付させ、鍼を留置したまま就寝させた。測定はプロアシスト社製ZA-Xを用い終夜脳波を測定およびVisual Analogue Scale(VAS)を用いた入眠時の主観を評価し、コントロールとなる測定日から介入日となる1週間後の2日でデータ取得。得られた結果から比較検討を行った。
【結果】計測を行った5名の内、3名から有効なデータが得られた。有効なデータ3名中2名で入眠潜時の短縮が確認された。また、残りの1名は入眠潜時こそ延長したものの、入眠後、睡眠段階N3への到達時間の大幅な短縮が確認された。VASによる評価では3名の中で一定の傾向は見られなかった。なお、脳波取得から得られたデータ、VAS共に統計解析による有意差は見られなかった。
【考察】円皮鍼の貼付によって足陽明胃経が疏通されることで足少陰腎経への気の流れが改善され、入眠潜時の短縮、あるいは睡眠段階N3までの到達時間短縮など、入眠においてよい影響を与えることが考えられる。
【結語】本研究によって、足陽明胃経への鍼刺激が入眠においてよい影響を与える可能性が示唆された。