【目的】がん化学療法時の副作用の1つに味覚障害があり、栄養摂取等に影響を与える。今回はTC療法とAC療法を対象とし、治療法による味覚障害や栄養状態の違いについて検討し、治療中の患者のQOL向上の一助とすることを目的とする。
【方法】2014年8月~2021年3月の間に術前又は術後化学療法(TCまたはAC)を受けた者を対象とし、研究説明後、同意を得た者の味覚検査、栄養状態を調査した。検査時期は治療開始前(P1)、2コース終了から3コース開始までの間(P2)、4コース終了直後(P3)とした。味覚検査キットを用いて5味(甘味・塩味・酸味・苦味・旨味)、3濃度(濃い、普通、薄い)を無記名のボトルにて手渡し、いずれの味であるかを回答する形式とし、点数化した。各人P1を基準点とし各ポイントとの得点差を算出し各味覚の変化を検討した。栄養状態は血清アルブミン値により比較した。
【結果】対象となる症例はTC:n=13、AC:n=18であった。味覚変化はTC、ACの得点差はP1を基準としてP2ではTC、AC共通して甘味、苦味が上昇、塩味、酸味が減少し、旨味のみTCでは上昇、ACでは減少傾向であった。P3では、TCとACでは異なる増減傾向を示した。血清アルブミン平均値はP1~P2では、TCが0.38g/dL、ACが0.23g/dLの減少、P2~P3はTCが0.11g/dL、ACが0.01mg/dLの減少が示された。P1~P3ではTCは0.49g/dL、ACは0.24g/dLの減少から、治療中はTCがACの約2倍の減少であった。変化した味覚別に対象者を群分けし、P1~P3の血清アルブミン値の比較をすると、TC療法では酸味が鈍感になった群が0.67g/dLの減少であり、最も栄養状態が低下していた。続いて甘味が敏感、塩味が鈍感になった群が0.5g/dLの減少であり、全ての味覚で減少傾向であった。一方AC療法は甘味が敏感になった群が0.5g/dLの減少が一番大きく、他の味覚は0.02~-0.1g/dLの増減であった。
【考察】TCとACの味覚変化はP2までほぼ同じ傾向を示すが、継時的な得点の推移ではTCが味覚の増減幅が大きく、また栄養状態もTCの方がACより血清アルブミン値の低下が大きいことから、味覚変化が大きいと栄養状態の低下も大きいことが示唆された。味覚別ではTCでは甘味が敏感になった群、TCでは酸味が鈍感になった群が最も栄養状態が低下していたことから、味覚変化のプロファイルはレジメン別に異なることが示唆された。