目的 医療における治療方針の決定方法には、インフォームドコンセントやShared decision making(SDM)などがある。SDMとは、医師を含めた医療者と患者が様々な情報を共有しながら、患者にとって最良の治療方針を決定する方法である。臨床工学技士はチームとしてSDMに関わることがあるため、臨床工学技士がSDMを適切に理解していないと、患者が最良の治療法を選択できない場合がある。また、臨床工学技士養成校の卒業後すぐからSDMを実践するためには、在学中から学習しておくことが望ましいと思われる。しかし、養成校において、インフォームドコンセントについては学習するが、SDMについては養成校で使用する教科書に掲載されていないことが多く、学習する機会がほとんどない。本学では、看護概論の座学でSDMについて学習するが、定期試験にて、インフォームドコンセントとSDMの違いを適切に説明できる学生は非常に少なく、座学だけでは十分な学習が望めないと考えられる。そこで、臨床工学技士養成校において、SDMについてどのように教育すれば効果的であるか検討した。
方法 臨床工学技士養成校の3年生10名に協力を依頼した。SDMについて簡単な講義を行った後、臨床工学技士役と患者役に分かれ、10分間のロールプレイを実施した。ロールプレイは腎臓病SDM推進協会のテキストを使用した。ロールプレイ後に、学生にどの程度SDMが実践できたかチェックリストへの記入を依頼し、チェックリストの結果を集計した。
結果 SDMでは、いくつかの治療方針を比較して説明する必要があるが、ロールプレイ実施後のチェックリストにおいて、10名中9名が「臨床工学技士役の学生は治療方法を比較して説明ができていた」にチェックを付けた。一方で、「臨床工学技士役の学生は治療法をわかりやすく説明できていた」という項目では10名中7名はチェックを付けなかった。SDMを実践した後の感想は、「患者の心情を聞き出すことが難しかった」、「患者中心の話し合いにすることが難しかった」などの回答があった。
結語 学生は、SDMを実践することによって、SDMのための効果的な質問および説明の仕方について考える機会となった。また、教員は、SDMについて学生が難しいと感じる具体的な意見を知ることができ、今後の座学教育の参考になった。SDMの理解を深めるためには、ロールプレイが有用であると考えられた。